【コラム】遺言を作成しない方が良いという記事について

willingwork株式会社の守田です。
私は毎日、googleアラートという機能を使って、キーワードに引っかかった記事を読んでいます。
「誰しもが遺言を作成すべき」と考えている私の真反対のことを言っている記事があったのでそれについて考察します。

まずは以下の記事を読んでください。

https://diamond.jp/articles/-/308450

(引用:ダイヤモンドオンライン 「遺言を書くから遺恨が残る!終活サポート専門家が教える財産の譲り方」)

私は遺言推進派です。むしろ、全員が作るべきだと考えています。
なのでこの記事を鵜呑みにすることはお勧めできません。
その理由は以下の2点から説明します。

① 遺言こそが相続人同士に遺恨を残す、の違和感

相続を経て、相続人同士が疎遠になることは珍しくないことです。ただ、遺言こそ遺恨を残す産物だという表現には違和感があります。

遺言があった場合に争いになるのは、主として遺留分を侵害している場合です。
遺留分とは、遺言などにより相続分を著しく減らされた人を保護する権利のことです。
具体例としては、配偶者と子ども1人が相続人であるケースで全財産を配偶者に相続させる遺言だと、子どもの遺留分を侵害することになります。この場合、子どもは配偶者に遺留分侵害額相当分の金銭を要求できることになります。

遺留分は法律で保護された権利なので、これを無視することはできません。
よって遺言の内容によってはこの遺留分が争いになることがあります。

だからと言って遺言を作らない方が良いという結論にはなりません。
なぜなら、遺言がない場合には相続人全員で遺産分割協議をする必要があるからです。
遺産分割協議では、各相続人の主張がぶつかり合うこともあります。
記事にも書いてありましたが、「学費で金銭的な負担をかけた子ども」や「親の介護をしていた子ども」がいたら、話し合いはどうなるでしょうか?お互いの主張がぶつかりあって、遺産分割協議という話し合いが進まなくなると思いませんか?
これこそ、遺恨を残す産物ではないでしょうか?

ちなみに遺産分割協議が進まなくなると、家庭裁判所で行う遺産分割調停になることがあります。
『https://willingwork.net/column20220822/』を参照)
調停は長い時間とお金がかかるほか、精神的な負担も大きいと思います。
遺言があって遺恨が残ることと遺言がなくて話し合いがうまくいかずに遺恨が残ることでは意味が大きく異なります。

上記の通り、遺留分を侵害している内容の遺言があった場合には揉める可能性があります。
ただし、それ以外の場合には相続人同士での遺恨は残る可能性がありますが、相続人同士で法律上の権利で揉めるということにはならないと思います。

反面、遺産分割協議ではそもそも話し合いがまとまらなければ、また調停などで提示された配分に納得できなければそれこそ遺恨が残るんではないでしょうか?
また、話し合いがまとまらない状況が長く続けば相続税申告など期限があるものについて不利になることもあります。

ちなみに「子どもに均等に財産を渡したい場合には遺言を作る必要はなく、遺産分割協議をすれば良い」と書いてありますが、遺産分割がさもうまくいくような表現で違和感があります。金融資産のような分けやすい財産のみならまだしも、不動産のような分割が難しい財産は遺産分割が大変になります。平等にしようと不動産を複数人の子どもに均等に持分を持たせた場合には、片方は売りたい、もう片方は貸したいなどその後の財産管理に不便が出る可能性があります。また、全員で売却すれば良いという話もありますが、売却金額が合意できるかも不透明です。早く売りたい子ども、相場で買ってくれる人が出てくるまで待ちたい子どもなど遺恨が残る可能性があります。

結論としては、どちらも遺恨が残る可能性があるが、どちらが相続人にとって良いのかを見極めることです。
遺言があるから遺恨が残るという図式は成り立たないと考えます。

② 遺言の欠点は全相続人に査定が公開されてしまうから、の違和感

配分の多寡を決めることは相続人に対する通知表のようなものであり、それが揉め事の火種になるからやめた方がよいというものにも違和感を覚えました。
通知表のようなもの、これは確かにそうかもしれません。「長男には他の相続人より多く」などと書かれていれば、長男以外の相続人はもどかしい気持ちになります。
ただし、通知表を出される可能性があるならそれ相応の対処をする必要があるのも事実です。
学校ではテストの成績で通知表が出されるならテスト勉強する、と言うのと同じ理屈だと考えます。

すなわち、相続人も亡くなる人のことをキチンと手当(介護や声かけ、気にかけているというアピール)をすべきです。
それをしなかった結果、通知表の結果が悪い(=遺言により配分を少なくされた)ことに文句を言うのはおかしいと思います。

遺言を作成する主な目的は、自らの財産を自らが望む人に配分することです。
遺言者があげたくなるような相続人になることも必要だと考えます。

記事では遺言を書かずに対策する方法として、事前に配分を伝えておくことを勧めています。手法としては賛成ですが、性善説でのみ成り立つ図式だと考えます。
私が過去に相談したお客様では、生前の話し合いで「このような配分で相続人が納得したから遺言は作成しない」という人が、実際に両親が亡くなった場合に手のひらを返してやはり財産が欲しいという話をされたケースもありました。

このような例から、事前に配分を決めたならその結果を基に遺言を作成しておくことが対策になると思います。

まとめ

私の経験からは、揉めたらどうするかを前提に相続対策を考える方が良いと思っています。
遺言を作るから揉めるという記事とは全く反対の考えですが、遺言がない場合でも揉めます。むしろ遺言がない方が揉めます。これは2,000先以上の相続相談を受けてきた実績から言えることです。

高いお金を払って遺言を作成する必要はないという部分についてですが、遺言は費用負担ゼロで作成することもできます。また、遺言があったとしても相続人の同意があれば遺言を使わずとも遺産分割をすることも可能です。

平均的な家庭では遺言は不要との記載もありましたが、「平均的な家庭」とはなんでしょうか?
大抵の人は自分は「平均的な家庭」だと思うのではないでしょうか?そうではなく、誰しもが遺言を作成すべきだと思います。

付言事項の記載など賛同する部分もあった記事でしたが、これを読んだ人が「ウチは遺言いらないね」とならないように注意喚起の目的でこの記事を書きました。
個々の事情を勘案して対策を実行してもらいたいと思います。

※ このコラムは記事を書いている人を非難するものではありません。